若い力で地方に地力を

~奈良県S村地方創生総合戦略~

(平成27年度)

~地方創生総合戦略に向けて、若い世代の出番~

 平成26年、急激に進む人口減少と超高齢社会への対策として、国において「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、併せて全国の各市町村で「地方創生総合戦略」として平成27年から5ヶ年の計画が立てられることとなった。東京一極集中の是正、若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、地域課題の解決のため、それぞれのまちがその特色を活かした施策を立案し、具体的な数値目標を掲げたうえで、より現実的なまちの未来を描き、実行する。

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活発な意見や提案が出された
若手ワークショップ

~人口減少を克服する~

 県の南部に位置し、村の90%を山林が占めるS村においても、人口減少と少子高齢化は危急の課題となっていた。平成22年時点の人口は1,039人(国勢調査)。戦略と同時に分析された人口ビジョンでは、現状のまま人口が推移した場合、平成52年には365人、平成72年には133人まで減少するという推計が出された。
 人口減少に対する村民の危機意識も高い。総合戦略の策定委員会では、「50年後の人口が133人」という衝撃的な推計結果に、悲鳴にも似た声とともに、住民と村が一丸となって、より現実に即しながら本計画に全力で取り組まなければならないという強い意見(意志)が表明された。また、事前に行われた住民アンケートでは、20歳代の定住意向が低く、「村外に移るかもしれない」が63.6%、「すぐに村を出たい」が9.1%と7割以上の方が移住を考えているという結果となった。村の活気ある未来を創るためには、若い世代の希望を実現すること、また若い世代が自らの未来のために主導的に動くことが必要である。

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~若手職員ワークショップで共有する村の課題と取り組み~

 そこで、計画策定にあたり庁内の若手職員を集めたワークショップを開催することとした。第1回目には、まず村の現状を把握し、理解を共有するために、総合戦略策定にあたり国が提示した政策分野に沿って3つのグループに分かれ、SWOT分析を行った。S村の内部環境として「強み」と「弱み」、外部環境として「機会」と「脅威」について付箋に書き出し、大きな模造紙に貼り出していく。出された意見はグループ内で話し合いながら共有し、最後に代表者による発表を行い、ワークショップ参加者全体で共有する。

SWOT分析

内部環境 強み
(Strength)
弱み
(Weakness)
外部環境 機会
(Opportunity)
脅威
(Threat)

 第2回目には、第1回目の分析結果を元に、戦略のSWOT分析(クロスSWOT分析)を行った。以下手順は第1回目と同様に、最後に代表者が発表を行い、例えば「獣害という弱みを改善・転換し、ジビエ料理の開発を行う」など、具体的な施策として提案された。

クロスSWOT分析

  強み 弱み
機会 活用
積極戦略
改善
転換戦略
脅威 解消
多角化戦略
回避
縮小・撤退戦略

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クロスSWOT分析の結果。
村の実態に沿った多くの施策が提案された

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グループ代表者による意見発表

 2回のワークショップには、ともに20名を超える参加者が集まり、活発な議論が交わされた。さまざまに挙げられた意見のなかには、各グループ共通して幾度も挙げられたものも多い。一人で思案する限りは不満や不足として留まっていた思いが、皆で共有することで「解決されるべき、目の前の課題」として実際に動き出す。
 人口減少や、若者の都市部への流出は、全国の地方に共通する課題である。若者は地域の密接なコミュニティや土着的な風習等に関心が薄いと言われることもある。しかし一方で、都市の利便性よりも、個々のライフスタイルを確立し、より豊かな(より満足感を得られる)生活を求める若者が増えており、その受け皿として地方の農村への期待は高まっている。S村において村の未来を担う若い世代が、活発に議論し、考え、ワークショップに取り組む姿は、村の今を形づくってきた大人たちをほっと安心させるとともに、鼓舞するものであっただろう。