地域福祉における 災害時支援のあり方 ~だれも取り残さない地域づくりに向けて~

 新型コロナウイルスの感染拡大下で、兵庫県B市では、第3次となる地域福祉計画が策定された。コロナ禍における「新しい生活様式」の実践が叫ばれる中、地域福祉活動においても、従来の集いふれあう支援のあり方が変容を迫られ、経済的困窮や差別、社会的孤立といった従来の問題が加速度的に進行しており、だれも取り残さない地域づくりをめざす地域福祉計画の重要性はますます高まっている。

 B市では、こうした課題に取り組むため、災害時における地域福祉のあり方は日常からの支援のあり方と切り離すことはできないと考え、市民参加のワーキング会議での議論をもとに、計画を策定した。

 

1)これまでの取り組みの経緯

 B市では、第1次計画からの同一の理念である「共生福祉社会の実現」を掲げ、これまでに、住民と専門職が生活上のさまざまな福祉的ニーズを協議し解決できる場としての小学校区ごとの「地域福祉ネット会議」や地区ボランティアセンターの整備支援、各地域のニーズを反映した地域ビジョンの策定やその実施事業を検討する「地域自治組織」の設立などが進められてきた。このような仕組みを中核にして、福祉課題を身近な地域の中で解決できる体制づくりを進め、地域福祉の創造に取り組んでいる。

2)計画策定の考え方  

 新型コロナウイルスの感染拡大により、日常生活が大きく変化する中、地域福祉活動においても、集いふれあう支援や支え合いのあり方が変容を迫られた。そういった状況において、また、頻発する自然災害への対応もふくめ、地域福祉計画における災害と支援のあり方をどうとらえるかということが策定の焦点のひとつであった。

 B市においては、災害時にどのような支援をするかという観点ではなく、災害時の要援護者支援を実現できるのは日常生活からの活動が大きく関わり、それを計画の中で謳っていかなければ、いざという時の支援は果たせないという考えのもと、議論がなされた。

 今回はコロナ禍が契機となったが、それによって市のかかえる従来からの課題が加速度的に進行するという認識のもと、コロナ禍や災害時であってもつながりを断ち切らせないための取り組みを盛り込むこととされた。

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3)市民参加による課題の抽出と施策の方向性の検討

◆市民参加の手法

 計画を策定するにあたり、ワーキング会議を設置して、地域の現状や課題、今後の方向性に関する具体的な議論を行った。

 自治会等の地域に根差した活動をされている地縁組織の方々、目的に応じて組織化されている老人クラブ等の団体の方々、そして特徴的な試みとして、当事者団体、NPOなどで先駆的に活動されている方々、マイノリティといわれる方々にもご参画をいただいた。各テーマに沿った実践報告をしていただき、参加者がイメージを膨らませてから、その後、グループに分かれて議論を進めていただくという形で進めた。

 全4回のワーキング会議のテーマ設定に関しては、市民、担い手、企業・事業所への市民アンケート調査、専門職、当事者団体へのヒアリング調査から課題を抽出し、4つのテーマを導いた。

 

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 また、B市では、市町村における包括的な支援体制の整備のあり方について国が示した、「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に行う、重層的支援体制整備事業を最重要課題のひとつと位置付け、うち「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の取り組みについて、ワーキング会議の4つのテーマに対応させている。

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◆ワーキング会議のまとめ

 テーマごとに議論を行い、以下のように課題が整理された。身近な地域での福祉活動における拠点の形成と同時に、それと連携したセーフティーネットの構築を進め、それらを下支えし推進する人づくりを進める。また、災害時に備えた日常的な連携や情報共有、防災に向けた取り組みを進めることで、日常と災害時が互いに担保し合う関係を築いていくことが重要と確認された。

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 テーマ④「災害」に関しては、各団体や地域等によって取り組みは進められているものの、地域で要支援者を支えるための体制が十分とはいえない、との現状が報告された。そこで、日常からどのような取り組みを進めていく必要があるかということが議論された。具体的には、要支援者の情報共有や連携の推進、福祉避難所の周知と合理的配慮の実践、まだ埋もれている防災ニーズの把握と取り組みの推進、防災教育の推進、コロナ禍における情報共有や支援の仕組みづくりなどが挙げられた。

 また、日常から災害を見据えた活動を行っていくと同時に、災害はあらゆる人に関係するテーマであることから、災害支援を切り口にした取り組みによってより多くの人の参加を促し、みんなが参加者であり支え合う意識を醸成しながら地域づくりを進めていくことが提案された。

 参加者の方々からは、コロナ禍で居場所がない、参加できない状況の中で認知症が増加したとの報告もあり、現場のリアルな声が多々寄せられた。しかし、こういった状況下でも、居場所づくりが難しいからと休止せず、工夫して取り組まれている団体の事例も報告された。当事者の方々からは、担い手や参加支援の問題に関しても、活動者として私たちはこういったことができるという発言がなされた。

 こういった地域の活動からの気づきの中でだれもが参加できる地域づくりを進め、どんな時でも地域福祉活動を可能にする体制をどうつくっていくか、体系化して計画に盛り込まなければならないということが確認された。

 

4)計画への反映

 災害は、属性や世代に関わらず地域のあらゆる人にとっての課題であることから、B市においては、災害への取り組みを進めることを通じて、地域住民だけではなく企業や商店も含めより多くの人の地域福祉活動への参加を促しながら、日常のつながりを強化し、災害にも強い地域づくりをめざすものとして位置付けられた。

 ワーキング会議における当事者の方々からは、活動者として、社会参加につながるさまざまな地域活動の事例報告がなされた。そうした地域での福祉活動をより広範に可能にするため、日常と災害を切り離さずとらえる視点を通じた「地域づくり」と、社会への「参加」を市全体で推進すること、また行政の役割として、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」を行う取り組みが今回の計画に盛り込まれた。

 計画の体系においては、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」に加え、市民による地域での福祉活動をバックアップするものとして、総合的な相談支援体制、権利擁護支援体制、情報提供体制が位置付けられ、重層的な支援体制を構築するための方向性が整えられた。災害時においてもだれも取り残さない地域づくりをめざすB市の、今後の地域福祉のさらなる展開に期待したい。