育まれる“たから”の今を形に

日野町紹介冊子制作(平成26年度)

 

~自然と歴史に育まれた日野~

日野町1

町並みを渡御する曳山(日野祭・6月)

 日野町は滋賀県の東南部、鈴鹿山系の西麗に位置する。北は東近江市、南は甲賀市と接し、総面積117.6平方㎞、人口およそ22,000人(平成27年11月1日現在)。町のシンボルである綿向山をはじめ、日野川ダム周辺を彩る桜や、鎌掛谷の貴重なホンシャクナゲ群落など、美しい自然に恵まれた町だ。一方で、日野町は豊かな歴史を語る町でもある。湖東最大級の歴史と規模を誇る春祭・日野祭は800年の伝統に育まれ、織田信長に仕え、果ては会津91万9320石の大大名となる日野町出身の蒲生氏郷公は、今も町民の誇りである。近江日野商人発祥の地でもあり、古く立派なお屋敷の並ぶまちなみとともに、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの精神が今も町に息づいている。

日野町2

近江日野商人館での展示

 

~写真で彩る‐町の自然~

 町を紹介する冊子を製作するに当たり、計10回以上取材に訪れた。まず、美しい写真を撮影すること。「日野」を表現する景色、町に暮らす人が誇らしく思い、町外の人が羨むような町の風景を切り取る。

 初め、特に町の担当者がこだわられていたのが「花」であった。先に述べた桜や町の花でもあるホンシャクナゲの他にも、藤の寺・正法寺の樹齢320年を超える後光藤や雲迎寺の境内を埋めるサツキなどの、町民に古くから親しまれている花木がある。また農業と観光を融合し、ヨーロッパの田舎町をイメージして開園された滋賀農業公園ブルーメの丘でも、季節によって様々な花のある風景が生まれる。それらは、町の中心部の古く美しいまちなみと、「八幡表に日野裏」という言葉に象徴される日野商人の屋敷の控えめな玄関口、そして見事な奥座敷とともに、「日野」を表すイメージとして、穏やかな、町の懐の深さを見る者に感じさせる。

 日野に育まれる美しい風景、人々の歴史・営みを、すべて優しく見下ろすようにあるのが町の東端に位置する日野の最高峰・綿向山だ。四季を紹介するページでは、花や伝統行事の写真を周囲に置きながら、誌面の中心となるのは常にこの偉大な霊峰であるようにレイアウトした。

日野4改

綿向山から昇る朝日が町の営みを照らし出す

 

~生まれる繋がりとたからのこれから~

 冊子構成の肝となったのが、日野町(民)のために自主的な活動を行っている方々を紹介するミニコラムだ。「まちなみ保全会」「街並みを活かす桟敷窓アートの会」「日野祭曳山囃子方交流会」「綿向山を愛する会」「日野少年少女合唱団」「三方よし!近江日野田舎体験推進協議会(農村民泊受入家庭)」(掲載順)の皆様には取材にご協力いただき、町のたから、町の未来について真摯に語っていただいた。お話を伺うなかで感じた皆様に共通する思い、それは町への愛情と「繋がり」を大切にする気持ちだ。

 例えば「まちなみ保全会」では、日野町で生まれ育った生粋の日野っ子と、日野の町家に一目ぼれして、どうしてもそこで暮らしたくて移り住んだという方が協力して、懐かしい、美しいまちなみを守るために努められている。町の外から来た人だからこそ感じる伝統美、その貴重さ。それを昔から町に暮らす人にどのようにして気付いてもらい、受け入れてもらうか。外からくる新しい風が、町の人々と繋がり、町の人々を繋ぎ、歴史を紡ぐ営みを活気づける。

 「日野少年少女合唱団」の活動も印象的であった。幼稚園児から高校生まで約70名が在籍し、共に練習する。年長者が教え、年少者はそれを見て、聞いて、成長していく。世代間の切れ目ない繋がりがずらりと並んで声を合わせる元気な子どもたちの姿に現れる。「子どもたちには人を感動させられる人物になってほしい。そのためにはまず自分から動く子どもに」と指導する先生は言われていた。繋がっていく子どもたちの未来も、町の大きなたからとなる。

日野町5

まちなみ保全会によるベンガラ塗りプロジェクト

 町で暮らしを営む人、町のすばらしいたからを守る人・見つける人、そして人々を取り巻く豊かな自然と歴史。日野町の今を綴った本冊子が、これからのまちづくりを進めていくうえで、人と未来を繋げる一資料となることを願う。